実運送体制管理簿
読み方:じつうんそうたいせいかんりぼ
実運送体制管理簿とは、多重下請構造を可視化するため、元請事業者に作成が義務付けられた帳簿のことです。実際に荷物を運んだ事業者の名称や請負階層などを記録します。
改正貨物自動車運送事業法により2025年4月1日から義務化され、2026年4月1日からは貨物利用運送事業者にも対象が広がっています。
実運送体制管理簿とは
トラック運送業界では、元請けから一次請け、二次請け、三次請けへと運送が再委託される多重下請構造が常態化してきました。階層が深くなるほど中間マージンが抜かれ、実際に運ぶ末端の事業者やドライバーの手取りが削られます。荷主から見ても、自社の荷物を最終的に誰が運んでいるのか把握できない状態でした。
この不透明さを解消するために設けられたのが実運送体制管理簿です。「誰が実際に運んでいるのか」「何次請けなのか」を書面に残させることで、構造の実態を明らかにし、是正につなげることを目的としています。
根拠法は「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律及び貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律」(令和6年法律第23号)です。物流統括管理者(CLO)の制度と同じ法改正パッケージに含まれています。
作成義務の対象
作成義務があるのは元請事業者です。ただし、次の条件をすべて満たす場合に限られます。
① 真荷主から直接運送を引き受けている
荷主から直接依頼を受ける立場、つまり元請けであることが前提です。
② 引き受けた運送について利用運送を行った(下請けに出した)
引き受けた貨物をすべて自社で実運送する場合、作成は不要です。ここは誤解が多い点です。自社車両だけで完結する運送なら管理簿はいりません。
③ 1回の運送依頼あたりの貨物重量が1.5トン以上
1荷主の1運送依頼あたり1.5トン以上が対象です。判断基準となるのは荷主から運送を引き受ける際の重量であり、実際に各社が運ぶ際の分割後の重量ではありません。この点を取り違えると対象判定を誤ります。
なお2026年4月1日以降は、貨物利用運送事業者(フォワーダー)が最上位の事業者となる場合も作成義務の対象となりました。従来は一般貨物自動車運送事業者に限られていましたが、自社でトラックを持たない事業者も管理簿を作る立場になっています。
記載事項
法令上、必須とされる記載事項は次の3つです。
| 記載事項 | |
|---|---|
| ① | 実運送事業者の商号または名称 |
| ② | 実運送事業者が実運送を行う貨物の内容および区間 |
| ③ | 実運送事業者の請負階層(一次請け、二次請け等) |
請負階層とは、荷主との契約後に締結された運送契約の数、つまり何次請けにあたるかを指します。
様式は定められていません。必要事項が満たされていれば形式は自由で、国土交通省も「既存の配車表を活用するなど、事業者の取り組みやすい形で作成可能」としています。電磁的記録(エクセルやシステム上のデータ)での作成も認められています。
実務上は、積込日・運送区間・貨物の内容・実運送事業者名・請負階層に加え、車番やドライバー名を任意で併記した一覧表の形が一般的です。荷主ごとに管理簿を分けて作成します。
保存期間と閲覧請求
管理簿は運送を完了した日から1年間、営業所に保存しなければなりません。
また、荷主は元請事業者に対して実運送体制管理簿の閲覧を請求できます。荷主から求められたら開示する必要がある帳簿だ、という点は押さえておくべきです。
なお、下請構造が固定化している場合には、運送ごとに毎回作成し直す必要はありません。同じ体制が続くのであれば継続利用が可能です。ただし最初に記録した運送から1年が経過した場合は、そこから初めて行う運送について改めて記録が必要になります。
情報通知の義務
元請事業者が管理簿を作成するには、下位の事業者から情報が上がってこなければなりません。そのため、関係する各事業者にも通知義務が課されています。
| 通知する者 | 通知先 | 通知内容 |
|---|---|---|
| 利用運送を行う事業者 | 委託先の事業者 | 元請事業者の連絡先、真荷主の名称、委託先の請負次数(下請情報) |
| 実運送事業者 | 元請事業者 | 実運送事業者の名称・商号、運送区間、貨物の内容、請負次数(実運送事業者情報) |
つまり、元請けでない中小の運送会社にも義務があります。「うちは下請けだから関係ない」は成り立ちません。実運送を担当したら、元請事業者へ自社の情報を通知する必要があります。
また元請事業者は、運送を委託する際に「この運送は実運送体制管理簿の作成対象である」旨を委託先へ確実に伝えることが求められます。
罰則
実運送体制管理簿の作成・保存義務そのものに、直接の罰則規定は設けられていません。
ただし義務違反である以上、貨物自動車運送事業法に基づく行政処分の対象となり得ます。行政処分は車両停止や事業停止、悪質な場合は許可取消しにまで及ぶ制度で、罰金がないから軽い違反、という理解は危険です。巡回指導や監査の際に確認される項目と考えておくべきです。
運送会社の経営者が押さえるべきポイント
① 「再委託は2回以内」の努力義務が効いてくる
2026年4月からは、貨物自動車運送事業者・貨物利用運送事業者に対し、再委託の回数を2回以内(実運送は三次請けまで)とする努力義務が課されています。管理簿によって請負階層が可視化されるため、四次請け以降であることが荷主や元請けに一目でわかる状態になりました。
これは中小事業者にとって、静かに、しかし確実に効いてくる変化です。四次以降の位置にいる会社は、仕事が先細ります。三次以内に食い込めるポジションを取れるかどうかが、今後数年の生き残りを分けます。
② 荷主に自社の名前が見えるようになった
これまで末端の実運送事業者は、荷主から存在すら認識されていませんでした。管理簿には運送事業者の商号が記載され、荷主は閲覧請求できます。輸送品質で評価されれば、階層を飛ばして直接取引につながる可能性が生まれたということです。運行品質・事故率・納品精度をデータで示せる会社にとっては追い風になります。
③ 元請け化を狙うなら事務体制が前提になる
利益率を上げるには元請けポジションを取るのが王道ですが、元請けになった瞬間に管理簿の作成・保存・荷主への開示対応、そして委託先への通知伝達という事務が発生します。ここを回せる体制がないまま元請けを受けると、行政処分リスクを抱え込むことになります。元請け化と管理部門の整備はセットで考える必要があります。
④ 1.5トン未満と自社完結は対象外
軽貨物や小口配送が中心で1回あたり1.5トン未満、あるいは引き受けた荷物をすべて自社車両で運んでいる場合、管理簿の作成義務はありません。ただし他社の実運送を担当する立場になれば、元請けへの情報通知義務は生じます。
よくある質問
- 決まった様式はありますか。 A. ありません。必須記載事項が満たされていれば形式は自由で、既存の配車表を活用する形でも認められます。エクセル等の電磁的記録での作成も可能です。
- 引き受けた荷物を全部自社で運ぶ場合も必要ですか。 A. 不要です。作成義務が生じるのは、引き受けた運送について利用運送を行った(下請けに出した)場合です。
- 1.5トンは実際に自社が運ぶ重量で判断しますか。 A. いいえ。荷主から運送を引き受ける際の重量で判断します。分割後の重量ではありません。
- 下請けの立場でも何かする必要がありますか。 A. あります。実運送を行った事業者は元請事業者へ実運送事業者情報を通知する義務があり、さらに下位へ委託する場合は委託先へ下請情報を通知する義務があります。
- 運送のたびに毎回作成し直す必要がありますか。 A. 下請構造が固定化している場合は、運送ごとの作成は不要です。ただし最初の記録から1年が経過した後は、改めて記録が必要になります。
関連用語
参考・出典
- 国土交通省「実運送体制管理簿の作成・情報通知の義務化」(改正貨物自動車運送事業法パンフレット) https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001865381.pdf
- 国土交通省「改正貨物自動車運送事業法(令和7年4月1日施行)について」 https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_mn4_000014.html
- 国土交通省「改正貨物自動車運送事業法 Q&A」
※本記事は2026年7月時点の情報です。個別の該当性判断は所管の運輸支局または専門家にご確認ください。