荷主勧告制度
読み方:にぬしかんこくせいど
荷主勧告制度とは、トラック運送事業者の法令違反が主として荷主の行為に起因すると認められる場合に、国土交通大臣が当該荷主に対して再発防止のための措置を執るべきことを勧告し、荷主名と事案の概要を公表する制度です。
貨物自動車運送事業法第64条に規定されています。
制度の趣旨
運送事業者が過労運転や過積載を行えば、行政処分の対象になります。しかしその原因が荷主の指示にある場合、運送事業者だけを処分しても再発は防げません。
「断れない立場にある事業者を処分するだけでは、構造は変わらない」という認識のもと、荷主にも責任を及ぼす仕組みとして設けられたのが荷主勧告制度です。
対象となる法令違反行為
荷主勧告の対象となるのは、次の3類型です。
| 違反行為 | |
|---|---|
| ❶ | 過労運転防止措置義務違反(ドライバーの労働時間のルール違反) |
| ❷ | 車両制限令違反(軸重等の一般的制限値または許可値を超える車両の運行、車両の総重量) |
| ❸ | 道路交通法違反(過積載運行、速度超過等) |
荷主の「主体的な関与」とされる行為
国土交通省は、荷主勧告に該当すると想定される荷主の主体的な関与について、次の4つを具体例として示しています。
| 行為 | |
|---|---|
| ❶ | 荷待ち時間の恒常的な発生 |
| ❷ | 非合理な到着時刻の設定 |
| ❸ | やむを得ない遅延に対するペナルティ |
| ❹ | 重量違反等となるような依頼 |
いずれも、現場では珍しくない行為です。「昔からこうだから」で受け入れられてきた慣行の多くが、制度上は勧告の対象になり得ます。
運用の流れ
平成29年7月1日から運用されている新たな荷主勧告制度では、荷主の関与の程度に応じて次のように扱われます。
トラック運送事業者の法令違反行為
↓
荷主の関与についての調査(荷主勧告該当性調査)
↓
┌─ 荷主が指示するなど主体的な関与が認められる場合
│ → 荷主勧告 → 荷主名の公表
│
└─ 主体的ではないが荷主の関与があった場合
→ 警告 → 3年以内に同様の事案が再発 → 荷主勧告
このほか、関係機関からの法令違反情報等をもとに関係する荷主を特定し、早期に「協力要請」を行う措置も通達で設けられています。
もう一つの制度「働きかけ・要請・勧告」
実務上、荷主勧告制度とセットで理解すべきなのが、貨物自動車運送事業法附則第1条の2に基づく「荷主への働きかけ等」です(令和元年7月1日施行、いわゆる荷主対策の深度化)。
両者は目的が近いため混同されがちですが、位置づけが異なります。
| 荷主勧告制度(法第64条) | 働きかけ等(法附則第1条の2) | |
|---|---|---|
| 前提 | 運送事業者への行政処分を行う場合 | 運送事業者への処分を前提としない |
| 対象 | 違反行為が主として荷主の行為に起因 | 荷主が違反原因行為をしている疑い |
| 措置 | 勧告・公表(+警告・協力要請) | 働きかけ → 要請 → 勧告・公表 |
「違反原因行為」とは、トラック事業者が法または法に基づく命令に違反する原因となるおそれのある行為をいいます。
3段階のフロー
| 段階 | 発動の条件 | 根拠 |
|---|---|---|
| 働きかけ | 違反原因行為を荷主がしている疑いがあると認める場合 | 附則第1条の2第2項 |
| 要請 | 荷主への疑いに相当な理由がある場合(働きかけを行わずに要請を行う場合もあり) | 同第3項 |
| 勧告・公表 | 要請してもなお改善されない場合 | 同第4項・第5項 |
さらに、独占禁止法の不公正な取引方法に該当すると疑うに足りる事実を把握した場合には、公正取引委員会への通知が行われます(同第7項)。
「違反原因行為」に該当しうる行為の例
国土交通省は次の例を示しています。
- 過労運転防止義務違反を招くおそれ:荷主の荷さばき場において、荷主都合による長時間の荷待時間を恒常的に発生させているような行為
- 過積載運行を招くおそれ:積込み直前に貨物量を増やすように指示するような行為
- 最高速度違反を招くおそれ:適切な運行では間に合わない到着時間が指定されるような行為
- 輸送の安全確保義務違反を招くおそれ:異常気象時など、安全な運行の確保が困難な状況で運行を強要するような行為
働きかけが実施される場合の考え方
国土交通省は、次のいずれかに該当する場合に働きかけを実施するとしています。
- 適正化事業実施機関による巡回指導や、国土交通省が実施する監査において、違反原因行為をしている疑いがあると認められる場合
- 本則の荷主勧告制度による協力要請等を受けたことがあり、引き続き違反原因行為をしている疑いがあると認められる場合
- 国土交通省や関係行政機関、地方運輸局等に対し、違反原因行為に関する同様の情報等が度々寄せられ、疑いがあると認められる場合
3番目が重要です。現場からの情報が積み重なることで、行政が動く仕組みになっています。
トラック・物流Gメン
この制度を実際に動かしているのが、令和5年に創設されたトラックGメンです。
令和6年11月には「トラック・物流Gメン」へ改組・拡充され、総勢360名規模の体制となりました。従来の運送事業者に加え、倉庫業者からも情報収集を行う体制が整えられています。
令和6年11月・12月に実施された「集中監視月間」では、勧告2件、要請7件、働きかけ423件の是正指導が実施されました。
近年は公正取引委員会と連携した合同の荷主パトロールも行われています。制度は運用されており、実際に社名公表に至った事例も存在します。
匿名で情報提供できる窓口があります
ここが最も実務的に重要な点です。
国土交通省は「輸送実態把握のための意見等の募集窓口」を設置しています。
本窓口は、コンプライアンス確保に影響しうる輸送に関する意見・事例を収集することを目的としており、本人の同意なく、提供された情報に基づき投稿者、事業者又は荷主に問い合わせを行うことはありません
長時間の荷待ちや契約に含まれない附帯業務の強要など、コンプライアンス確保に影響しうる輸送を行わざるを得ない実態を把握するための窓口です。
「情報提供したことが荷主に伝わるのではないか」という懸念に対して、国が明示的に回答しています。
窓口URL:https://yusou-jittai.mlit.go.jp/
経営者が押さえるべきポイント
① これは「密告制度」ではなく、自社を守る制度です
制度の構造を正しく理解してください。荷主による違反であっても、行政処分を受けるのは運送事業者です。車両停止、事業停止、悪質な場合は許可取消し。失うのは自社の事業です。
荷主勧告制度は、その原因をつくった側にも責任を及ぼす仕組みです。使うことは裏切りではなく、事業を守る正当な手段です。
② 違反原因行為の最多は「長時間の荷待ち」
国土交通省の集計では、荷主による違反原因行為のうち長時間の荷待ちが約4割を占め、次いで依頼になかった附帯業務、過積載、拘束時間超過が続きます。
つまり、多くの運送会社が抱えている課題が、そのまま制度の対象になっているということです。
③ 順序を守る。いきなり通報ではない
実務的な進め方は次のとおりです。
- 記録を整える(荷待ち時間、附帯作業時間、到着指示時刻と実際の荷役開始時刻)
- 荷主に協議を申し入れる(改正物流効率化法で荷主には荷待ち・荷役時間短縮の努力義務がある)
- 改善されなければ、制度の存在を前提に再度協議する
- それでも動かなければ、窓口への情報提供を検討する
いきなり4番から入る必要はありませんし、そうすべきでもありません。重要なのは、1〜3の段階で「この会社は記録を持っており、制度も理解している」と伝わることです。多くの場合、そこで話が動きます。
④ 記録がなければ、この制度は使えない
働きかけの発動要件は「違反原因行為をしている疑いがあると認められる場合」です。疑いを裏付けるのは記録です。
荷待ち時間は荷主都合で30分以上待機した場合に業務記録への記載が義務であり(2025年4月から全車両が対象)、保存は1年間。義務として求められている記録が、そのまま制度を使う根拠になります。
⑤ 荷主側の環境も変わっている
2025年4月から荷主には荷待ち・荷役時間短縮の努力義務が課され、2026年4月からは特定荷主に物流統括管理者(CLO)の選任が義務付けられました。荷主自身がコンプライアンス対応を求められている状況です。
「御社にも努力義務があり、当社にはデータがある」という前提で協議に臨めるかどうかで、結果は大きく変わります。
よくある質問
- 荷主勧告制度とは何ですか。 A. トラック運送事業者の法令違反が主として荷主の行為に起因すると認められる場合に、国土交通大臣が荷主に対し再発防止のための措置を執るべきことを勧告する制度です。勧告を発動した場合には荷主名と事案の概要が公表されます。
- どんな荷主の行為が対象になりますか。 A. 国土交通省は主体的な関与の例として、荷待ち時間の恒常的な発生、非合理な到着時刻の設定、やむを得ない遅延に対するペナルティ、重量違反等となるような依頼の4つを示しています。
- 荷主名は本当に公表されるのですか。 A. 公表されます。勧告を発動した場合には、当該荷主名および事案の概要が公表されます。実際に勧告が実施された事例があります。
- 情報提供したことが荷主に伝わりませんか。 A. 国土交通省の意見等の募集窓口は、本人の同意なく、提供された情報に基づき投稿者・事業者・荷主に問い合わせを行うことはないとされています。
- 荷主勧告と「働きかけ」は何が違うのですか。 A. 荷主勧告(法第64条)は運送事業者への行政処分を行う場合が前提ですが、働きかけ等(法附則第1条の2)は処分を前提とせず、荷主が違反原因行為をしている疑いがある段階で実施されます。働きかけ→要請→勧告・公表という段階を踏みます。
- トラック・物流Gメンとは何ですか。 A. 荷主等への監視・是正指導を行う国土交通省の体制です。令和5年にトラックGメンとして創設され、令和6年11月に「トラック・物流Gメン」へ改組・拡充されました。
関連用語
- 改善基準告示
- 荷待ち時間 / 荷役等時間
- 最大積載量
- 標準的な運賃
- 燃料サーチャージ
- 物流の適正化・生産性向上に向けた法律
- 物流統括管理者(CLO)
- バース / トラック予約受付システム
- デジタコ(デジタルタコグラフ)
参考・出典
- 国土交通省「トラック運送事業者の法令違反行為に荷主の関与が判明すると荷主名が公表されます!」 https://www.mlit.go.jp/common/001204970.pdf
- 国土交通省「荷主等への働きかけについて」(荷主対策の深度化関係) https://wwwtb.mlit.go.jp/tohoku/yg/yusou/sub3-9/sub3-9_12_13.pdf
- 国土交通省「荷主勧告制度改正の概要」 https://www.mlit.go.jp/common/001024705.pdf
- 国土交通省「『トラック・物流Gメン』について」 https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_tk4_000116.html
- 国土交通省「輸送実態把握のための意見等の募集」 https://yusou-jittai.mlit.go.jp/
※本記事は2026年7月時点の情報です。制度の運用・体制は見直されるため、最新の情報は国土交通省のサイトでご確認ください。
- 荷待ち・附帯作業の記録体制を整えたい → ドラ秘書リモート